【パパの悩み日記 vol.37】
「今日は話したくない」
その一言が、あんなにも胸に刺さるとは思っていなかった。
彼女がそう言って寝室にこもってから、もう数日が経っていた。
同じ家にいても、まるで別々の時間を生きているような感覚。
食事の時間も、会話も、娘の存在だけが“家族”という形を繋いでいた。
以前は、彼女の笑顔があればそれで安心だった。
でも今は、その笑顔さえーーどこか作り物のように感じてしまう。

夜。
ひとりリビングに座り、スマホの画面をぼんやりと見ていた。
通知欄に浮かび上がる「1年前の今日」の写真。
娘と彼女と3人で撮った、なんでもない休日の1枚。
ソファの上で笑いながらピースをする娘。
その隣で、彼女と肩を寄せ合って笑う自分。
その笑顔に、嘘はなかったはずだ。
たった1年前。こんなにも幸せそうに笑っていたのに、
いま、なぜこんなにも遠く感じるのだろう。
⸻
「何が、変わってしまったんだろう──」
育児、仕事、家事、そして将来への不安。
日々の小さなすれ違いが、心のひだに積もっていった。
最初は「疲れてるのかな」と見過ごしていた態度。
でも次第に、その沈黙が「言わない」のではなく「言えない」に変わっていった。
何度も伝えようと思った。
「俺だって頑張ってるよ」と。
でも、頑張ってるのは彼女も同じだった。
それを理解しているからこそ、何も言えなかった。
⸻
翌朝。
「おはよー!」
娘の明るい声が、空気を揺らす。
変わらないのは、この子だけだ。
彼女は無言でキッチンへ向かい、トーストを焼き始める。
僕は無言のままコーヒーを入れる。
気まずさだけが食卓に漂っていた。
それでも娘は、パンを両手で持って「おいしー」と笑っていた。
その笑顔を見て、心のどこかがちくりと痛んだ。
“この子がいるから、まだ間に合うかもしれない”
ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。

午後、少し時間ができた。
彼女は洗濯物を干していて、
僕はいつもならスマホをいじるところを、無言で手伝いに行った。
彼女は少し驚いたように振り向いて、
小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。
それだけだったけど、
その「ありがとう」は、昨日までとはどこか違った。
なんとなく、ほんの少しだけ“ぬくもり”を感じた。
⸻
夕方。
娘が絵本を持って走ってくる。
「パパ、よんでー!」と、満面の笑顔。
膝の上に娘を乗せて絵本を読み始めると、
気づけば、彼女も隣にそっと座っていた。
3人でページをめくる。
声に出して読むたび、娘が笑う。
そしてふと──娘がこう言った。
「パパとママ、にこにこしてー!」
彼女と目が合う。
一瞬、目をそらされたけど、次の瞬間──ふっと笑ってくれた。
「にこにこだよね」
その言葉に、こみ上げるものを抑えられなかった。
⸻
夜。
娘が寝静まったあと、久しぶりに彼女とふたりで話した。
「…ごめん。ちゃんと向き合えてなかった」
そう言うと、彼女は静かに頷いた。
「私も…疲れてたんだと思う。
娘のことだけでいっぱいいっぱいで、
あなたのこと、後回しにしてた」
「俺も…勝手に我慢して、勝手に落ち込んでた」
言葉が止まらなくなった。
これまでのすれ違い、伝えられなかった想い、
何気ない日々の中で飲み込んでいた言葉たちが、
堰を切ったようにあふれ出してきた。

「育児って、こんなに苦しいなんて思わなかったよね」
「うん。でも…娘の笑顔だけは、嘘がないよね」
「……あの子の笑顔が、俺たちをつないでくれてたと思う」
ふたりとも、泣いた。
それはきっと、悲しい涙じゃなかった。
もう一度、“はじめられる”ための涙だった。
⸻
ふたりで笑った朝を、もう一度信じたい。
思い出にすがるんじゃなく、
これから先の“日常”を一緒に築いていくために。

これからの毎日が“また笑える日々”でありますように
夫婦って、思っていたよりもずっと難しくて、
でも、思っていたよりもずっと“壊したくない関係”だった。
泣いた日も、怒った日も、
そのすべてが「やり直すための時間」だったと、
いつか思える日がくると信じたい。
娘の笑顔のために、
そして、かつて笑い合えたふたりのために──
あの日の笑顔を、もう一度。
それが叶うなら、
何度でも、何度でも、手を取り直して歩きたい。
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※本記事は実体験をもとに再構成したエッセイであり、プライバシー配慮のため日付や細部を一部ぼかし、理解を助ける目的で時系列や表現を調整しています。

2歳の娘と過ごす日々のなかで、父親としての葛藤や喜びを綴っています。
会社勤務・平凡なサラリーマンだからこそ伝えられる、リアルな「パパの悩み」。
子育てに正解はないけれど、どこかの誰かが「わかる」と思ってくれたら、それだけで嬉しいです。
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