【パパの悩み日記 vol.36】
ふたりでリビングに座っていた夜。
言葉数は少なく、なんとなく気まずい空気が流れていた。
育児と仕事と、疲れと、ほんの少しの苛立ちと——。
そんなとき、彼女がポツリとつぶやいた。
「もういいよ、今日は話したくない」
そう言って、彼女は寝室にこもった。

娘が寝静まったリビング。
食器の音も、テレビの音も、聞こえない。
沈黙だけが、部屋の空気を満たしていた。
⸻
育児と仕事の両立。
寝不足と疲労。
そして、少しの苛立ち。
彼女が何気なく言った「なんでそんな言い方するの?」のひとことに、
僕の中の“なにか”が崩れた。
「そっちだって、いつも…」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
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口に出せば、
それはきっと“言い訳”にしかならない気がして。
黙ることが、せめてもの誠意のような気がして。
でも、それは——
逃げだったのかもしれない。
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あのとき、
彼女の目は潤んでいた。
何も言わずに、立ち上がって寝室へ向かうその背中に
僕はただ、黙ってうつむいた。
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「なんで言い返さなかったんだろう」
「いや、言い返さなくてよかったのか?」
「でも、ほんとは抱きしめてほしかったんじゃないのか?」
「いや、そんなことないか。。。」
自問自答を繰り返しながら、時間だけが過ぎていった。
⸻
朝になっても、
彼女の目は少し腫れていた。
「ごめん、昨日…」と口を開きかけたけど、
彼女は「ううん、もういいよ」と、笑って言った。
その笑顔が、
僕には少しだけ、泣きそうに見えた。

娘が「きょう、パパおしごとー?」と笑う。
「うん、がんばってくるよ」と返すと、
彼女は小さく「いってらっしゃい」とだけ言ってくれた。
笑顔の裏に、本当の気持ちは隠れている。
そのことを、僕はわかっているつもりだった。
でも、わかっていなかったんだと思う。
わかろうとしていなかっただけなんだと思う。
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夜中、ひとりでPCに向かっていたとき、
ふと、テーブルの上に小さな紙が置いてあるのに気づいた。
「さっきはごめん。私も疲れてた。」
たった一言のメモ。
でもその一文に、
どれだけの想いが込められていたのだろう。

僕はそのメモを手に取って、
胸がぎゅっと締めつけられた。
謝らなきゃいけないのは、僕の方だ。
言葉にしなきゃ、伝わらないのに。
なぜそれを、いつも後になって思い出すんだろう。
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彼女は、ずっと
戦ってくれていた。
眠れない夜も、泣きそうな朝も、
僕を責めることなく、一緒に育児に向き合ってくれていた。
それに、ちゃんと応えられていたのか。
「ありがとう」って、言ってきたか?
「無理しないで」って、伝えたことあったか?
⸻
あの夜、
何も言えなかった僕に——
今日の僕が、言ってやりたい。
「気づいてるなら、言葉にしろよ」
「怖がるな、ちゃんと想いは伝わる」
「いつも一緒に乗り越えてくれてる人なんだから」
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娘が笑う。
その笑顔の後ろには、
毎日を頑張ってくれている彼女の姿がある。
だから、伝えたい。
「ありがとう」って。
「いてくれて、助かってるよ」って。
⸻
そう思って、
寝室をそっと開けた。
眠っている彼女の横顔に、
小さく「ごめん」と「ありがとう」をつぶやいた。
きっと明日も、また何かですれ違うかもしれない。
でもそのたびに、少しずつでも
“言葉にする勇気”を忘れないようにしたい。
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※本記事は実体験をもとに再構成したエッセイであり、プライバシー配慮のため日付や細部を一部ぼかし、理解を助ける目的で時系列や表現を調整しています。

2歳の娘と過ごす日々のなかで、父親としての葛藤や喜びを綴っています。
会社勤務・平凡なサラリーマンだからこそ伝えられる、リアルな「パパの悩み」。
子育てに正解はないけれど、どこかの誰かが「わかる」と思ってくれたら、それだけで嬉しいです。
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