
毎朝、保育園で泣いていた娘。
「いやぁ…ぱぱとがいい…」
制服の袖をぎゅっと握りしめ、離そうとしない小さな手。そのぬくもりと必死な声に、何度も後ろ髪を引かれる思いで園を後にしていた。
こっちはこっちで、毎朝が戦場みたいだった。
朝ごはん、着替え、荷物の準備に自分の支度。
時間と心にまったく余裕がない中での“泣き別れ”は、正直しんどかった。
でも、どこかで思っていた。
「いつか泣かなくなる日が来るんだろうな」って。
そう思いながらも、その“いつか”は、もっともっと先の話だと思っていた。
──けれど、その朝は突然やってきた。
いつも通りの慌ただしい朝。
着替えを済ませた娘が、自分でリュックを背負い、玄関でくつを履いて、ぽつりとこう言った。
「きょうは…ないない、しないの」
その言葉に、一瞬、耳を疑った。
「え? 本当に?」
そう思って見つめていたら、娘はにこっと笑って、
「て、つないでくれる?」と手を差し出してきた。
その手を握った瞬間、心がふわっと温かくなった。
保育園までの道を、手をつないで歩く。
途中で見かけた猫に「おはよー」って声をかけたり、
ランドセルのお姉ちゃんに手をふったり、
娘は終始ごきげんだった。
園に着くと、自分でくつを脱いで、先生に元気よく「おはようございます!」
そして、くるっと振り返って──
「ぱぱ、またねー!」

泣かなかった。
一度も、涙を見せなかった。
あんなに毎日、泣いていたのに。
信じられない気持ちと、こみあげる嬉しさと、ほんの少しの寂しさが入り混じって、
「大きくなったな…」と心の中でつぶやいた。
仕事中、ふと思い出しては、にやけそうになる。
「今日の娘はすごかったな」
いつか、こういう日が来るとは思っていたけれど、
いざその瞬間が訪れると、嬉しい反面、
なんとも言えない切なさがあるんだなって、実感した。
夜。寝かしつけのあと。
すやすや眠る娘の横で、そっとほっぺにキスをした。
その瞬間、娘が小さな声でつぶやいた。
「ぱぱ、きょうはないないしなかったね」
それは、娘なりの誇らしさだったのかもしれない。
だけど俺には、まるで「成長を見ててくれてありがとう」と言ってくれてるみたいで──
…こっちこそ、泣きそうだったよ。

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